数年前、ある収益物件について相談を受けました。
すでに借入の返済が苦しくなり、金融機関と返済条件を変更している状態でした。
相談に来られたのは、県外に住む所有者の奥様。ご主人名義で購入した、富山市内の築年数が30年を超える物件です。
老後の生活を支えるために購入したはずの不動産。
ところが、その物件が老後の資金を圧迫していました。
今回は、当社が管理を引き受け、再建に取り組んだものの、最後まで難しさが残った事例です。
※当時の対応経験に基づく記事です。個人や物件の特定につながる情報は一部省略しています。
「家賃保証付き」で購入した物件の現実
相談時に伺った経緯では、購入時には家賃保証が付いていました。
ところが、購入から約2年で保証家賃が大幅に減額。その後、その会社もなくなり、保証は打ち切られたとのことでした。
現地の管理も十分に行き届かず、当社が相談を受けた時点で入居率は70%弱。
借入は約2億円弱、金利は年4.5%という状況でした。
参考として、借入残高を2億円と仮定すると、年4.5%の利息は単純計算で年間900万円、月平均75万円です。
これは元金返済を含めない計算です。実際の利息額は、その時点の残高や返済条件によって異なります。
建物の状態、空室、借入の負担。
当社から見ると、どれか一つ改善すれば済むという状況ではありませんでした。
なお、サブリースについては、国土交通省も「家賃保証」という表現だけで誤解を招かないよう、家賃が減額され得ることなどの表示・説明を求めています。「保証付き」という言葉だけで、将来の収入まで固定されていると判断しないことが大切です。
現場に行くと、漏水だらけだった
管理を引き受けるに当たり、私たちは一つの条件を伝えました。
「ある程度の覚悟を持って、再建に取り組んでいただくこと」
管理会社を替えるだけで解決する物件ではないと考えたからです。
実際に現場へ行ってみると、あちこちで漏水が発生していました。
共用部では、漏れてくる水をバケツで受け、ホースで流している。
そんな応急処置が、何か所も残されていました。
正直な感想は、
「これでは、内見に来ても借りたいとは思わないだろう」
でした。
修繕費が出せない。根本的な原因も解消されていない。応急処置にお金を使っても漏水は止まらず、入居者が退去していく。
まさに悪循環です。
私たちが最初に取り組んだのは、漏水の原因を突き止めることでした。
そして、この案件では正規の保険請求手続きを経て支払われた保険金を修繕に充て、漏水を止めました。あわせて、お部屋のリフォームも進めました。(前の管理会社では火災保険を使うという提案すらなかったとの事)
これは当該案件での対応経緯です。漏水なら何でも保険金で修理できるという意味ではありません。
建物の状態を改善し、募集に取り組んだ結果、入居率は少しずつ回復し、90%まで上がりました。
入居率が上がっても、資金繰りは解決しなかった
それでも、経営は楽になりませんでした。
入居率を改善しても、借入の負担と相次ぐ修繕を吸収しきれなかったのです。
さらに、金融機関から元金返済の再開を求められました。
そこで、私たちは改善計画書を作成し、金融機関へ説明しました。
結果として、元金据置期間の延長について理解を得ることができました。
再建に取り組む時間は確保できました。
しかし、借入そのものが減ったわけでも、建物の問題がすべてなくなったわけでもありません。
その後も費用のかかる問題が続き、やがて退去後の原状回復費用を用意することさえ苦しくなっていきました。
「誰に責任があるか」と「どう再建するか」
相談の中では、繰り返しこんな言葉が出てきました。
「仲介業者に騙された」
「管理会社に騙された」
「銀行に騙された」
やがて、かぼちゃの馬車問題も勃発し「これはチャンス」と思ったのか、銀行を訴えるという話にもなりました。
私は、ここで誰にどのような法的責任があったのかを断定するつもりはありません。契約書や勧誘時の説明などを確認せずに、詐欺だったとも、問題がなかったとも言えません。
ただ、現場で再建を担当する私たちには、目の前の課題がありました。
次の修繕費をどう用意するのか。
空室をどう埋めるのか。
返済を続けられる状態に、どう近づけるのか。
責任を追及したいという気持ちだけでは、この資金計画が決まりません。
私は、責任の検証と並行して、所有者自身にも再建のための判断をしていただく必要があると考えていました。
何も手放さず、資金も使わず、何とかしてほしい
いよいよ厳しくなると、何とか打開策を考えてほしいと懇願されました。
しかし、ご相談の条件は次のようなものでした。
- 自宅は手放したくない。
- 退職金は老後のために残しておきたい。
- 自己破産もしたくない。
どれも、ご本人たちにとって切実な希望だったと思います。
老後のために買った物件で、老後の備えまで失いたくない。その気持ちは分かります。(売却するにしても、2年以上、元金返済を止めていますから、元金はほとんど減っておらず、難しい。)
しかし、物件の収支が厳しく、修繕費さえ不足する中で、使える資金や見直せる条件が限られれば、私たちが提案できる対策にも限界があります。
当社としては、提示された条件のままでは、実行可能な再建策を示せないところまで来ていました。
管理会社は、募集も、修繕の手配も、金融機関への説明支援もできます。
それでも、所有者に代わって資金を出すことや、資産をどうするか決断することまではできません。
約3年間、一度も所有者本人に会わなかった
この案件で、今も特に印象に残っていることがあります。
最初の管理相談から、管理契約、そして解約まで、約3年間。
所有者であるご主人とは、一度もお会いしませんでした。
相談の窓口は、奥様でした。
もちろん、ご家族が窓口を務めること自体を問題にしているわけではありません。ご夫婦の間で何を話し合い、ご主人がどこまで判断していたかは、私には分かりません。
それでも、返済条件の変更、修繕費の不足、今後の再建方針という重大な局面で、所有者本人と直接話す機会が一度もなかった。
支援する側として、そこには大きな難しさを感じました。
ご本人は、この物件の現状をどう受け止めているのか。
何を守り、そのために何を見直す覚悟があるのか。
これから、この物件をどうしたいのか。
私は、その意思を直接聞きたかったのです。
厳しい言い方になりますが、当時はこう感じました。
「自分の賃貸経営に、自分が向き合わずに、どうやって立て直すのだろう」
管理会社を替えても、引き継がれる課題がある
最終的に、その方は外部の団体へ相談し、別の管理会社へ変更されました。
解約の際には、当社への感謝と、管理を変更することへのお詫びの言葉もいただきました。
その後、次の管理会社にどのような説明をしたのか、物件がどうなったのかは、私には分かりません。
ただ、当社が関わった期間を振り返ると、入居率の改善だけでは解決できない課題がありました。
借入の負担。
建物の修繕。
そして、再建に必要な資金をどう確保するかという判断です。
管理会社の変更を検討する際にも、こうした課題をどう解決するのかまで考えてほしいと思います。
賃貸経営の主役は、所有者自身です
私が伝えたい「自己責任」とは、困った人を突き放すための言葉ではありません。
購入時の説明に問題があったのか、業者や金融機関に責任があるのか。それを確かめることを否定するつもりもありません。
ただ、私は管理会社として、所有者自身にも経営の当事者であってほしいと思っています。
物件の状態を知る。
収支を把握する。
必要な修繕について判断する。
厳しくなったときには、何を守り、何を見直すのかを決める。
私たちは、その判断を支えるために知恵を絞り、現場で動きます。
管理会社は、オーナーの共同経営者でありたい。だからこそ、オーナー自身にも経営に向き合っていただきたいのです。
不動産を購入する前に、考えてみてください。
家賃保証が減額されたら。
想定外の修繕が必要になったら。
計画どおりに入居が決まらなかったら。
そのとき、自分は何を判断し、どこまで対応できるのか。
老後のために購入した不動産が、老後を苦しめる原因になってしまっては、本末転倒です。
賃貸経営は、買って終わりではありません。買ってから、経営が始まります。

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