見栄は張るな!満室になっても破綻する賃貸経営の落とし穴

だいぶ前の話になりますが、こんなオーナーさんがいました。

その方が所有していたのは、相続で取得したハウスメーカーで建築された築30年超のアパート。全部で16戸ありましたが、半分以上が空室でした。

最後に入居が決まったのがいつだったのか、オーナー自身も思い出せないほど、長い間放置されていた物件です。

ご紹介をきっかけに、管理を引き受けることになりました。

目次

古くても、需要がない物件ではなかった

確かに築年数は経過していました。

しかし、現地を確認すると、決して需要のない物件ではありませんでした。直すべきところを直し、現在の入居者ニーズに合わせれば、まだ十分に競争できる物件だったのです。

ところが、以前の管理会社からは具体的な改善提案は全くなかったそうです。

私たちから見れば、特別に難しい工事ではありません。賃貸経営では一般的な、基本レベルのバリューアップ工事です。

オーナーさんは、すでに物件を半ば諦めていました。

それでも、我々の提案を素直に受け入れ、まずは空室を1部屋ずつ改善していくことになりました。

工事をした部屋は、すぐに入居が決まりました。

その結果を確認してから次の部屋を工事する。さらに入居が決まったら、また次の部屋を改善する。

この繰り返しによって、物件の入居率は順調に上がっていきました。

入居が決まるたびに「1万円」の謝礼

しかし、このオーナーさんには、少し気になるところがありました。

入居が決まるたびに店舗へ来て、

「ありがとう!」

と言いながら、高級なお菓子やスイーツを差し入れてくれたのです。

それだけではありません。

客付けに関わったスタッフ全員に、謝礼として1万円を配っていました。当時は、現在のようなADの仕組みがまだなかった時代です。

最初の1回、2回くらいまでは、スタッフもありがたく受け取っていました。

しかし、入居が決まるたびに毎回となれば、話は別です。

私はオーナーさんに、

「今後はADという形で、会社が正式な報酬としていただきます。高級なお菓子や、スタッフ個人への謝礼まで気を使わなくて大丈夫です」

と伝え、お断りしました。

ところが、その後もADを会社に払いながら、客付けしたスタッフに対し、私に内緒で謝礼を渡していたようです。

ほぼ満室になった頃、オーナーと連絡が取れなくなった

管理を引き受けてから1年半ほど経過した頃です。

物件の入居率は大幅に改善し、ほぼ満室になっていました。

一見すると、賃貸経営は見事に立て直されたように見えます。

ところが、その頃からオーナーさんの様子が変わり始めました。

原状回復工事や修繕の相談をしても、以前とは違って、そっけない対応をするようになりました。

そのうち、電話にも出なくなりました。

必要な修繕について相談したくても、連絡すら取れません。

不審に思った私は何度も連絡し、ようやくオーナーさんと話すことができました。

そこで分かったのは、信じられない事実でした。

物件はほぼ満室。

それなのに、オーナーさんは破綻寸前の状態だったのです。

満室なのに破綻寸前になった3つの理由

細かい資産状況や借入金まで、経営全体を把握できたわけではありません。

しかし、ヒアリングによって、大きく3つの原因が分かりました。

1.見栄を張ってお金を使い過ぎた

まずは、単純にお金を使い過ぎていました。

入居が決まるたびに謝礼金を払い、高級なお菓子を配る。同じことを、ほかの所有物件でも繰り返していました。

もちろん、感謝の気持ちを伝えること自体は悪くありません。

しかし、お金を使うことと、感謝を伝えることは別です。

それ以外にも、収入が増えた影響もあり、税理士の勧めで、高級車を購入したり、無駄な買い物が増えていたのです。

家賃収入が増えると、急に自分のお金が増えたような気持ちになります。

しかし、そのお金から税金、返済、修繕費、将来の大規模工事に備える資金を残さなければなりません。

通帳の残高が増えたからといって、自由に使ってよいお金が増えたとは限らないのです。

2.デッドクロスの影響を受けた

もう一つの原因が、いわゆるデッドクロスです。

空室だった物件が急に息を吹き返し、家賃収入が増えた一方で、減価償却費として計上できる金額は以前より少なくなっていました。そのため、オーナーさんの想定を超えて課税所得と税負担が増えたということです。

デッドクロスとは、一般的に、経費にできる減価償却費よりも、経費にできない借入金の元金返済額が大きくなる状態を指します。

帳簿上は利益が出て税金がかかる一方で、実際の手元資金は返済によって減っていくため、利益とキャッシュフローが一致しなくなります。

ただし、今回のオーナーさんについて、借入残高や返済内訳、減価償却の詳細まで確認できたわけではありません。ここで述べているのは、本人へのヒアリングによって分かった範囲です。

3.バリューアップ工事で手元資金が減っていた

入居率を上げるために、空室を1部屋ずつ改善しました。

工事そのものは成功し、入居率は大幅に上がりました。

しかし、その工事費によって、オーナーさんの手元資金は薄くなっていました。

工事をすれば、すぐに入居が決まる。

入居が決まれば、次の部屋も工事する。

この流れ自体は間違っていません。

問題は、物件の改善効果だけを見て、オーナーさんの資金繰りまで十分に確認できていなかったことです。

結果として、

  • 謝礼や差し入れなどの支出
  • 想定を超えた税負担
  • 継続的なバリューアップ工事
  • 借入金の返済
  • 通常の修繕費

これらが同時に重なり、手元資金が急激に減ってしまったのです。

収入が増えれば、税金も増える

人間は、収入が増えると、つい気が大きくなります。

以前、大手ハウスメーカーの営業担当者で、初年度に契約を次々と獲得し、歩合給で1,000万円以上稼いだ人たちを見たことがあります。

その収入を使い切ってしまい、翌年になって住民税を払えなくなり、借金をする。

その借金を返すために、さらに契約を取る。

すると収入が増え、その翌年の税負担も増える。

このような悪循環に陥った人を、私は何人も見てきました。

収入が増えたときほど、気をつけなければなりません。

今年の収入が増えたからといって、その増加分をすべて使ってよいわけではありません。税金は、時間差でやってきます。

賃貸経営も同じです。

入居率が上がった。

家賃収入が増えた。

通帳の残高が増えた。

その瞬間だけを見て、「経営がうまくいっている」と判断するのは危険です。

お金がないなら、正直に「お金がない」と言えばいい

この事例から伝えたいことは、非常にシンプルです。

見栄を張らないことです。

管理会社に高級なお菓子を配る必要はありません。

担当者に個人的な謝礼を渡す必要もありません。

また、管理会社から工事を提案されたからといって、手元資金がない状態で、すべてをそのまま受け入れる必要もありません。

お金がないときは、素直に、

「今は手元資金が少ない」

「この工事を一度に行うのは難しい」

「どの部屋から優先すべきか、一緒に考えてほしい」

と相談すればいいのです。

その情報がなければ、管理会社は正しい提案ができません。

管理会社にも責任がある

この話は、オーナーさんだけの問題ではありません。

私たち管理会社にも反省すべき点があります。

空室を埋めることだけが、管理会社の仕事ではありません。

工事を提案し、入居を決め、満室にすれば、それで終わりではないのです。

オーナーさんの資金状況や今後の修繕計画、税負担、借入金の返済まで意識しながら、実行する工事の優先順位を考える必要があります。

もちろん、管理会社がオーナーさんの資産状況をすべて把握することはできません。また、具体的な税務判断は税理士の領域です。

それでも、

「この工事を今、本当に実施できるのか」

「一度に全部やらず、段階的に進めるべきではないか」

「工事後も十分な手元資金が残るのか」

という視点は必要です。

オーナーさんの懐事情も一緒に考えながら提案する。

それが、賃貸経営の共同経営者を掲げる管理会社の責任だと思います。

満室はゴールではない

賃貸経営では、満室にすることが大切です。

しかし、満室は経営のゴールではありません。

満室になっても、税金や返済、工事費によって現金が残らなければ、経営は続きません。

本当に見るべきなのは、入居率だけではなく、最終的にいくら手元に残るのかです。

派手なことをする必要はありません。

謝礼を配って、管理会社に気に入られる必要もありません。

できる工事から、一部屋ずつ進める。

収入が増えても、すぐに使わない。

税金と将来の修繕に備えて、現金を残す。

そして、お金がないときは、正直に相談する。

賃貸経営は長期戦です。
そして、私が強く訴えている「経営」なのです。経営しなければ必ず破綻します。

見栄は張るな。地道に行け。

結局、それが最も強い賃貸経営なのです。

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