最近はだいぶ減りましたが、これから収益物件を買いたいという「不動産投資家の卵」のような方が、よく私のところへ相談に来られます。
そういう方の多くが、
「〇〇先生の本を読みました!」
と言いながら、有名投資家が書いた本を大事そうに持って来ます。
中には、本がボロボロになるまで何度も読み返している方もいました。
勉強熱心なのは、悪いことではありません。
何も勉強せずに収益物件を買おうとするより、はるかに立派です。
しかし、その本を見て、私が最初に思うことがあります。
その情報、何年前のものですか?
10年以上前の本を、現在のバイブルにしていないか
相談者が大切に持っている本を確認すると、10年以上前に発刊されたものだったということが珍しくありません。
しかも、本に書かれている成功事例は、出版された時点よりさらに前の話です。
著者が不動産投資を始め、試行錯誤を重ね、一定の成果を出してから本になるわけです。
本の発刊時期が10年前なら、掲載されている事例は15年前、場合によっては20年以上前ということもあります。
その時代と現在とでは、
- 物件価格
- 金利
- 金融機関の融資姿勢
- 必要な自己資金
- 建築費や修繕費
- 入居者が求める設備
- 賃貸市場の需給
- 不動産会社や金融機関の審査体制
など、さまざまな条件が変わっています。
当時は正しかった方法でも、現在、そのまま再現できるとは限りません。
「自己資金ゼロで物件を買いたい」
最近は、さすがに減りましたが、10年ほど前までは、このような相談者がかなりいました。
「自己資金ゼロで収益物件を買いたいです」
理由を尋ねると、
「〇〇先生の本に、自己資金ゼロで購入したと書いてありました!」
と、自信満々に答えます。
私は、その著者のことも、その人が投資を始めた頃の状況も、ある程度知っていました。
確かに、その時代には、自己資金をほとんど入れずに融資を受け、物件を購入できた事例がありました。
しかし、それは十数年前の話です。
さらに、そうした融資を受けられた人の多くは、勤務先、年収、保有資産などの属性が比較的良かったのです。
そこで、相談者に尋ねました。
「ところで、ご職業は何ですか?」
すると、自信満々に返ってきた答えは、
「無職です」
でした。
さらに、
「無職でも融資を受けられるケースがあると聞きました」
と言うのです。
自己資金はない。
定期的な給与収入もない。
それでも、昔の成功者が自己資金ゼロで物件を買ったのだから、自分にもできると思っている。
残念ながら、それは情報のいいところだけを集めた考え方です。
「無職なら絶対に融資を受けられない」と一律に断定することはできません。十分な金融資産や担保、既存事業の収益など、ほかの返済原資が認められる可能性はあるからです。
しかし、安定収入も自己資金も保有資産もなく、一般的な収益物件を全額融資で購入するという話であれば、少なくとも現実的な計画とはいえません。
成功者と自分では前提条件が違う
成功事例を参考にするとき、最も確認しなければならないのが前提条件です。
例えば、
- その人はどのような勤務先に勤めていたのか
- 当時の年収はいくらだったのか
- どの程度の金融資産を持っていたのか
- すでに収益物件を所有していたのか
- どの金融機関から融資を受けたのか
- 物件価格と担保評価はどの程度だったのか
- 金利と融資期間はどうだったのか
- 購入した時期の市況はどうだったのか
これらが違えば、同じ方法を使っても結果は変わります。
「この人ができたから、自分にもできる」
というほど、不動産投資は単純ではありません。
S銀行問題以前に起きていたこと
これは少し話がそれますが、S銀行問題以前は、県外の三為業者から当社へ、ほぼ毎日のように電話がかかってきました。
「富山で何かいい物件はありませんか?」
という問い合わせです。
当時は、県外の投資家へ富山の収益物件を販売しようとする業者が、非常に活発に動いていました。
また、昔の投資本などから得た情報をもとに、自己資金や自身の属性をほとんど考えないまま相談に来る人も少なくありませんでした。
ところが、S銀行をめぐる問題が表面化して以降、私のところに来ていたそのような相談者や、県外業者からの電話は、ほとんどなくなりました。
これは全国すべての業者や投資家が同じように減少したという統計的な話ではありません。あくまでも、私自身が富山の現場で経験した変化です。
皮肉な言い方になりますが、そういう意味では、S銀行問題には過熱していた市場を冷やす結果になった一面もあったと感じています。
もちろん、不適切な融資や書類改ざんを肯定しているわけではありません。
金融庁が2018年10月に公表した行政処分では、賃料や入居率、預金残高、所得確認資料などの改ざんを伴う融資が多数認められたとされています。
問題なのは、融資を通すために事実とは異なる資料を使い、投資家が返済能力を超えた借金を抱えるような取引が行われていたことです。
有名投資家も、最初は素人だった
有名な不動産投資家も、最初から成功していたわけではありません。
誰でも、最初は素人です。
実際に物件を購入し、失敗や試行錯誤を重ねながら、知識と経験を蓄積していきます。
その人が本に書いた内容が、当時から間違っていたとは限りません。
その時代、その人の属性、その物件、その金融機関という条件の中では、合理的な方法だった可能性があります。
しかし、その成功者自身も、出版後にさらに経験を積んでいます。
10年前に書いた本と、現在の考え方がまったく同じとは限りません。
ところが、読者だけが昔の本をバイブルとして持ち続け、著者本人より古い情報の中に取り残されていることがあります。
本に書かれていない失敗にも目を向ける
成功者の本には、参考になる知識や考え方が数多く書かれています。
一方で、その人が成功するまでに経験したすべての失敗や、すべての前提条件が書かれているとは限りません。
本は、限られたページ数の中で一つのテーマを伝えるものです。
読者が理解しやすいよう、複雑な事情が整理されていることもあります。
だからこそ、読者側が、
「この方法が成立した条件は何だったのか」
「現在も同じ条件がそろっているのか」
「自分の属性や資金力でも再現できるのか」
と考えなければなりません。
都合のよい結論だけを取り出してはいけないのです。
情報は常にアップデートする
不動産投資の情報は、一度勉強すれば終わりではありません。
特に融資に関する情報は、金融機関、支店、担当者、申込者の属性、物件の内容、時期によって判断が変わります。
「〇〇銀行は融資するらしい」
「自己資金ゼロでも買えるらしい」
「無職でも借りられた人がいるらしい」
こうした情報を聞いたら、まず確認すべきなのは、
それは、いつの、誰の、どのような条件の話なのか
ということです。
成功事例を学ぶことは大切です。
しかし、昔の成功事例を、現在の自分にそのまま当てはめるのは危険です。
書籍だけでなく、現在の市場を知る地元の不動産会社、実際に融資審査を行う金融機関、購入後の客付けを担う管理会社など、複数の立場から情報を集める必要があります。
最後に判断するのは自分
著者は、あなたの融資を保証してくれません。
仲介業者も、あなたの返済を代わってくれません。
管理会社も、物件購入の損失を補償することはできません。
誰かの成功事例を参考にして購入したとしても、最終的な責任を負うのは購入した本人です。
だからこそ、情報収集も自己責任です。
本に書いてあった。
有名投資家が言っていた。
SNSで成功した人を見た。
それだけで、大きな借金を伴う判断をしてはいけません。
著書に書かれていることが間違いなのではありません。
その情報が、いつの、誰に向けた、どのような前提条件の話なのかを確認せず、自分に都合よく解釈することが間違いなのです。
不動産投資を始める前に、もう一度確認してください。
それ、何年前の情報ですか?
情報は必ず更新する。
都合のよい話だけを集めない。
そして、最後は自分で判断する。
投資は自己責任です。
次回は「投資は自己責任」を棚に上げたオーナーのお話をします

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