IT重説が終わっても契約成立ではない?IT重説の落とし穴

近年、不動産業界でも「IT重要事項説明(以下、IT重説)」が定着しつつあります。

すでに導入している不動産会社も多いのではないでしょうか。

遠方のお客様にも対応でき、来店の負担を減らせるIT重説は、非常に便利な仕組みです。

しかし、IT重説には見落としやすい落とし穴があります。

それは、

IT重説を完了しただけでは、賃貸借契約が成立したことにはならない

という点です。

今回は、当社で実際に起きた事例をご紹介します。

IT重説の翌日にキャンセルの連絡

当社で賃貸物件をお申し込みいただいたお客様に、IT重説を行いました。

重要事項の説明は問題なく終了しました。

契約書と重要事項説明書については、お客様に署名・捺印していただき、後日、郵送で当社へ返送してもらう予定でした。

IT重説が終了した後、すぐにお客様から契約金の振込みもありました。

当社としては、

  • IT重説が完了している
  • 契約条件も説明している
  • 契約金も入金されている
  • 契約書などは署名・捺印後に返送される予定である

という状態です。

ところが、その翌日、お客様から連絡がありました。

「一緒に住む予定だった恋人と別れることになったので、やはりキャンセルしたい」

という内容でした。

当社としては、すでにIT重説を行い、契約金も受領しています。

「ここまで手続きが進んでいるのだから、契約は成立しているのではないか」

そう考えました。

しかし、本当に契約成立を主張できるのか、慎重に確認する必要がありました。

同じ事例を3者に確認した結果

そこで当社は、今回の同一の事例について、次の3者へ確認しました。

  • 国土交通省
  • 富山県の住宅課
  • 当社の顧問弁護士

それぞれに異なる内容を聞いたわけではありません。

今回起きた事実関係を同じように説明し、見解を求めました。

その結果、3者とも同じ趣旨の回答でした。

今回の事例では、

重要事項説明が終了し、契約金の入金があっても、重要事項説明書や契約書に署名・捺印がなければ、契約は成立していない

という回答でした。

さらに、

仮にお客様が書類へ署名・捺印していたとしても、その書類を郵送で当社へ返送していなければ、契約する意思が相手方へ示されたとは判断できず、契約成立を主張することは難しい

という見解でした。

国土交通省、富山県の住宅課、顧問弁護士の3者へ同一の事例を説明して確認し、全員から同じ趣旨の回答を得たのです。何度もしつこく聞いたので、特に県の住宅課はムカついてたと思います(笑)

IT重説は「契約締結」ではない

ここで混同してはいけないのが、IT重説と賃貸借契約の違いです。

IT重説は、パソコンやスマートフォンなどを使い、オンラインで重要事項を説明する方法です。

対面で行っていた重要事項説明を、一定の要件のもとでオンラインに置き換えたものです。

重要事項説明は、これから契約しようとするお客様に、物件や契約条件の重要な内容を説明する手続きです。

つまり、

IT重説が完了したことと、賃貸借契約の締結が完了したことは別の問題です。

IT重説が終わったからといって、自動的に契約が成立するわけではありません。

今回の事例では契約金まで入金されていましたが、3者へ確認した結果、それでも契約成立を主張することは難しいという回答でした。

契約金の入金だけでも足りなかった

不動産会社からすると、契約金が入金されていれば、契約する意思があると考えるのが自然です。

実際、今回のお客様も、IT重説を受けた後に契約金を振り込んでいます。

しかし、今回の事例では、それだけでは契約成立とは認められないという見解でした。

契約書などへ署名・捺印し、さらにその書類を当社へ返送するという手続きが残っていたからです。

お客様が契約書に署名・捺印したとしても、その書類を手元に置いたままで当社へ返送しなければ、当社はその事実を確認できません。

また、署名・捺印した書類を相手方へ渡さなければ、契約する最終的な意思を相手方へ示したとは判断されないということでした。

これは、IT重説を導入している不動産会社にとって、非常に重要なポイントです。

郵送による契約には空白期間が生まれる

IT重説を行った後、紙の契約書へ署名・捺印してもらい、郵送で返送してもらう方法では、どうしても時間差が生まれます。

一般的には、次のような流れになります。

  1. IT重説を行う
  2. お客様が契約書などへ署名・捺印する
  3. お客様が書類を郵送する
  4. 不動産会社へ書類が到着する
  5. 不動産会社が書類の内容を確認する

IT重説が終わってから契約書が到着するまで、数日かかることもあります。

その間に、お客様の事情や気持ちが変わる可能性があります。

今回のように同居予定者と別れることもあれば、転勤が中止になったり、家族から反対されたり、別の物件を選んだりするケースも考えられます。

不動産会社としては、IT重説を終え、入金まで確認しているため、契約手続きはほぼ終わったと認識しがちです。

しかし、紙の契約書が戻ってくるまでの間に、契約の意思を撤回されるリスクが残ります。

これが、郵送方式とIT重説を組み合わせた場合の落とし穴です。

3者から示された回避策は電子契約

では、このような問題をどのように回避すればよいのでしょうか。

今回の事例について3者へ確認した際、示された対策が「電子契約」でした。

IT重説が終了した後、直ちに電子契約を行い、お客様から電子署名を受ける方法です。

紙の契約書を郵送する方法では、

「IT重説は終わっているが、契約書はまだ返送されていない」

という空白期間が発生します。

電子契約であれば、IT重説が終了した直後に、そのまま契約手続きを進めることができます。

例えば、次のような流れです。

  1. IT重説を行う
  2. 説明終了後、電子契約書を送信する
  3. お客様に内容を確認してもらう
  4. その場で電子署名を受ける
  5. 電子契約を完了させる

これにより、IT重説から契約締結までの時間差を大幅に短縮できます。

また、電子契約システムを利用すれば、いつ契約書を送り、いつ本人が確認し、いつ電子署名を行ったのかという記録も残しやすくなります。

IT重説と電子契約はセットで考える

IT重説は、遠方のお客様への対応や業務効率化に役立つ便利な仕組みです。

しかし、IT重説だけを導入して、契約書は従来どおり郵送するという運用では、今回のような問題が起こる可能性があります。

大切なのは、IT重説だけを単独で考えないことです。

IT重説から電子契約までを一つの流れとして設計する必要があります。

理想的なのは、IT重説が終了した後に時間を空けず、その場で電子契約へ進むことです。

「電子契約書は後で送ります」

「都合の良いときに署名してください」

という運用では、電子契約を導入していても、その間にキャンセルされる可能性があります。

IT重説の終了後、そのまま電子契約へ進み、電子署名まで完了してもらう。

ここまでを一連の手続きとして行うことが重要です。

不動産会社が見直すべき実務

IT重説を導入している不動産会社は、次の点を確認する必要があります。

  • IT重説終了後、契約書をどのように締結しているか
  • 紙の契約書が返送されるまで何日かかっているか
  • IT重説から契約締結までに空白期間がないか
  • 契約成立の認識が社内で統一されているか
  • 契約金の入金だけで契約成立と判断していないか
  • IT重説後、直ちに電子契約へ進める仕組みがあるか
  • 電子署名が完了したことを確認しているか

営業担当者が「IT重説まで終わったから、もう契約は成立している」と思い込んでいると、キャンセルが発生した際にトラブルになる可能性があります。

IT重説の実施と契約締結は別の手続きであることを、社内でも共有しておく必要があります。

まとめ

今回、当社では次の状態まで手続きが進んでいました。

  • IT重説が完了していた
  • 契約条件の説明も終了していた
  • お客様から契約金が入金されていた
  • 契約書などは後日郵送で返送される予定だった

しかし、その翌日にお客様からキャンセルの連絡がありました。

そこで、同一の事例について国土交通省、富山県の住宅課、顧問弁護士へ確認しました。

その結果、3者とも同じ趣旨の回答でした。

今回の事例では、IT重説が完了し、契約金が入金されていても、署名・捺印した契約書などが相手方へ返送されていなければ、契約成立を主張することは難しい。

そして、この問題を回避するために示された方法が電子契約でした。

IT重説後、直ちに電子契約を行い、その場で電子署名を受ける。

IT重説を導入するのであれば、契約締結までを含めた業務フローを作らなければなりません。

IT重説が終わったからといって、安心してはいけません。

その後の電子契約まで完了して、初めて一連の契約手続きが完了したと考えるべきです。

自社管理物件であれば、電子契約も問題なくできますが、他社管理の物件だと、管理会社が電子契約に対応しているか否かが絡むので難しいところです。

IT重説を導入している不動産会社は、このようなリスクがあることを理解し、自社の契約手続きを今一度見直してみてください。

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