「入居者が決まってから、原状回復すればいい」
「とりあえず、そのまま募集しておいて」
賃貸管理をしていると、オーナーさんから、このような指示をいただくことがあります。
工事に回すお金がない。
何十万円もかけて、本当に入居者が決まるのか不安。
次の家賃が入る見込みもないのに、先にお金を出したくない。
その気持ちは、分からなくもありません。
しかし、部屋を探しているお客様の立場から見たら、どうでしょうか。
「お金をかけたくない」という貸す側の事情と、「この部屋に住みたい」という借りる側の気持ちは、別です。
今回は、退去後の部屋を次のお客様に貸せる状態へ整える工事や清掃を、まとめて「原状回復」と呼んでお話しします。
掃除前のホテルの部屋を見せられたら?
例えば、ホテルに泊まろうとして、部屋を見せてもらったとします。
ところが、前の利用者が残したごみが散らかり、室内は汚れたまま。
そこで、ホテルの人から、
「大丈夫です。掃除をすれば、きれいになりますので」
と言われたら、どうでしょう。
「そうですか。では、この部屋でお願いします」
と、すんなり納得できますか?
私なら、
「別の部屋はありませんか?」
と聞きたくなります。
もちろん、ホテルの宿泊と賃貸の内見は、同じではありません。
ただ、私が伝えたいのは、目の前で見せられた状態が、その部屋の印象になるということです。
「きれいになります」と説明されても、今、見えているのは汚れた部屋です。
これから毎日暮らす場所を選ぶお客様に、その不安を抱えたまま判断してもらおうとしていないでしょうか。
「決まってから直す」で、何か月も決まらない
退去後、管理会社が現地を確認して、見積もりを提出する。
ところが、オーナーさんの返事は、
「次の入居者が決まってから工事をする」
「先に募集しておいて」
そのまま内見をしても、なかなか申込みにつながらない。
数か月が過ぎると、今度は、
「いったい、いつになったら決まるんだ!」
「早く客付けしてくれ!」
と叱られる。
私が現場で経験してきた、困るパターンの一つです。
管理会社としても、もちろん早く決めたい。
しかし、必要な清掃や補修が終わっていない状態では、案内の際に説明しなければならないことが増えます。
「この壁紙は張り替える予定です」
「この汚れは清掃で落とします」
「この設備は修理します」
お客様は、今ある部屋を見ながら、完成後の姿まで想像しなければなりません。
貸す側が準備しておくべきことを、お客様の想像力に頼っていませんか?
原状回復前でも決まる。でも、それを当てにしていいのか?
原状回復が終わっていなければ、絶対に契約が決まらないわけではありません。
私の経験でも、繁忙期や人気エリア、人気物件では、工事前に申込みが入ることがあります。
ただし、それを、どの物件にも当てはめるのは無理があります。
私の実感としては、汚れや傷みが残ったままの部屋は、きれいに整えた部屋に比べて、申込みにつなげるのがかなり難しくなります。
これは、統計的に集計した決定率ではなく、現場で案内や募集に関わってきた経験に基づく話です。
お客様からすれば、候補はその部屋だけとは限りません。
同じような条件で、すでにきれいになっている部屋があれば、そちらと比較されます。
そのとき、
「契約してくれたら、きれいにします」
という説明だけで、選んでもらえるでしょうか。
工事前でも決まることがあるからといって、工事を後回しにする判断が正しいとは限りません。
まずは、内見前に整えておきたい三つのこと
私がオーナーさんにお願いしたいのは、豪華なリフォームをすることではありません。
まず、お客様が安心して部屋を見られる状態をつくることです。
1.必要な清掃と補修を終わらせる
ごみを片付け、汚れを落とし、傷んだ箇所や設備の不具合を確認する。
壁紙や床も、どこまで補修・交換する必要があるかを判断する。
すべて新品にすればよい、という話ではありません。
管理会社には、募集上どこが問題になるのか、何を優先すべきなのかを説明してほしいと思います。
予算が限られるなら、なおさら優先順位が必要です。
「全部やるか、何もしないか」の二択にしないことです。
2.空室でも照明をつけられるようにする
私は、内見時に照明をつけられる状態にしておくことも大切だと考えています。
お客様に見てもらいたいのは、間取りだけではありません。
部屋の明るさ、壁や床の状態、水まわりの使い勝手。
暗い室内で、
「電気をつければ、もっと明るいですよ」
と説明するより、実際に見てもらいたいのです。
通電の手配や照明器具の準備は、管理会社と相談してください。
3.長期空室なら、生活をイメージできる工夫をする
必要な清掃や補修が終わっているのに、長く空室が続く。
そうした場合、私はホームステージングも検討する価値があると考えています。
例えば、家具や小物を使い、
「ここにソファを置ける」
「このスペースを食事に使える」
と、暮らし方を伝える工夫です。
ただし、飾れば決まるというものではありません。
家賃や募集条件、写真、設備なども確認し、その物件に必要な対策を選ぶことが先です。
工事代だけでなく、空室期間も考えてほしい
オーナーさんにとって、何十万円もの工事代が重いことは理解しています。
しかし、判断するときには、工事代と一緒に、空室が続く期間も考えてほしいのです。
例えば、月額家賃5万円の部屋が3か月空室なら、その期間に入ってこない家賃は15万円です。
計算は、5万円×3か月。
もちろん、工事をすれば、その3か月を必ず短縮できるという意味ではありません。
それでも、
「今、工事代を払わずに済んだ」
という一点だけで判断してよいのでしょうか。
その後、数か月空室が続き、結局、同じ工事をすることになったらどうなるか。
工事費を抑えることと、賃貸経営全体で損を減らすことを、あわせて考える必要があります。
必要な提案をしない管理会社も、論外です
ここまでオーナーさんへのお願いを書きましたが、管理会社にも言いたいことがあります。
見積書だけ送って、
「承認をお願いします」
では、十分ではありません。
なぜ、その工事が必要なのか。
工事をしないと、内見時に何が問題になるのか。
予算を抑えるなら、どこを優先するのか。
工事費に見合う募集条件なのか。
そこまで説明し、オーナーさんが判断できる材料を示すのが、管理会社の仕事だと私は考えています。
「オーナーがお金を出さないから決まりません」
で終わっていては、共同経営者とは言えません。
一方で、必要性を説明し、代案も示しているのに、準備を止めたまま客付けだけを求められても、管理会社ができることには限界があります。
オーナーには、貸せる状態へ整える判断を。管理会社には、その判断を支える提案と募集活動を。
その両方が必要です。
「自分なら、この部屋を借りたいか?」
原状回復をしなければ、客付けは不可能なのか。
不可能とは言いません。
ただ、私は、必要な準備を終えてからお客様を迎えることを基本にしてほしいと思っています。
貸す側の事情をいったん置いて、内見に来たお客様と同じ目線で部屋を見てください。
「自分なら、この状態の部屋を借りたいか?」
そこでためらうのであれば、お客様も同じところで迷うかもしれません。
「早く決めてくれ」と言う前に、決めてもらうための準備ができているか。
そして管理会社は、その準備を具体的に提案しているか。
賃貸経営は、オーナーと管理会社の共同作業です。
お互いにやるべきことをやって、お客様に選んでもらえる部屋をつくりましょう。

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